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北斎「富嶽三十六景」の初摺と後摺題の枠と輪郭線は藍か黒か

葛飾北斎の「富嶽三十六景」は、江戸の初摺から大正・昭和の摺り、印刷の複製まで、さまざまな時代のものが出回っています。浮世絵研究家の小島烏水が『江戸末期の浮世絵』(1931年)に記した観察をもとに、題の枠と輪郭線の色で摺りの時期を見分ける手がかりをまとめました。

公開:2026年10月30日 / 文:版画買取.com 査定担当

結論

「富嶽三十六景」は全46枚で、版元は永寿堂の西村与八です。烏水によると、最初の36枚は初摺では画面の隅の題の枠(冠榜)と地名が藍で摺られ、後から追加された10枚は初摺でも黒の輪郭と黒文字でした。後年の摺りになると、46枚すべてが黒の輪郭・黒文字になり、線がかすれて北斎らしい鋭い線が失われます。題の枠が藍か黒か、線が鋭いかかすれているかが、摺りの時期を見る最初の手がかりです。

お手元の富嶽三十六景、いつの摺りか写真で確認します

作品全体と、左上の題の枠・署名に寄った写真を送っていただければ、摺りの時期と買取の目安を査定担当が確認してお返事します。額に入ったままでも構いません。

査定料・相談料は無料です。売るかどうかは査定額を見てからお決めください。お断りいただいても費用はかかりません。

資料について

出典は、小島烏水『江戸末期の浮世絵』(梓書房、1931年)の「葛飾北斎の富嶽三十六景」の章です。 原本は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できます(57〜58コマ)。 小島烏水(1873–1948)は登山家・浮世絵研究家で、日本では著作権の保護期間が満了しています。改印の読み方は、同じ烏水の『浮世絵と風景画』をもとにした浮世絵の改印で年代を読むで解説しています。

46枚あるのはなぜか

烏水によると、北斎ははじめ36枚で完結させるつもりでしたが、題材が多かったのか、需要が多かったのか、描き足して46枚まで出版されました。 当時の版元・西村屋与八の出版物の巻末広告には、「富嶽三十六景」を藍摺の一枚物として紹介し、一枚に一景ずつ追々出版すれば百にも余るだろう、三十六に限るものではない、という趣旨の文が載っていると烏水は紹介しています。 烏水はこの広告をもとに、出版は天保2年(1831年)頃まで続いていたのではないかと推測しています。

初摺は題の枠と地名が藍

各図の隅には、「富嶽三十六景」と書かれた題の枠(冠榜)があり、その下に地名が添えられています。 烏水は、元の版(原板)ではこの題の枠と地名まですべてが藍で摺られていると書いています。 富士や景色の輪郭線も藍で引かれた図が多く、「凱風快晴」では山の輪郭を藍でくまどり、版木を拭き取ってやわらかいぼかしを付けていると説明しています。

追加の10枚は初摺でも黒

後から追加で作られたとみられる10枚は、初摺であっても黒の輪郭と黒文字です。烏水が挙げた10枚は次のとおりです。

この10枚は俗に「裏富士」と呼ばれますが、烏水は、甲州側から見た富士は3枚だけで、東海道や江戸市中から見た富士まで裏富士とは言えないと指摘しています。 つまりこの10枚は、黒い枠でも初摺の可能性があります。

後摺の特徴:黒の輪郭とかすれた線

烏水によると、実際の後摺では46枚すべてが黒の輪郭と黒文字になり、描線もかすれて、北斎独特の明晰な線の美しさが失われているものが多いとしています。 同じ北斎の絵本『富嶽百景』でも、初版は鮮明な線と鼠色のぼかしで奥行きを出しているのに対し、後の版では色をべた塗りにし、最後には版木が転々として墨一色の摺りが出回り、線がほとんど磨り減っていると書いています。 版木を長く使い続けると、線から傷んでいくことがよく分かる例です。「富嶽三十六景」が藍摺として売り出された経緯は藍摺(藍絵)の浮世絵とはにまとめています。

早見表

見る点最初の36枚の初摺追加10枚の初摺後摺(46枚とも)
題の枠と地名藍黒黒
輪郭線藍の図が多い黒黒
線の状態鋭く明晰鋭く明晰かすれ・欠けが出る
査定での扱い最も評価が高い初摺として評価初摺より下がる

お手元の富嶽三十六景、いつの摺りか写真で確認します

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藍の枠だけで判断しない理由

明治以降の復刻では、初摺の姿をまねて題の枠を藍で摺ったものもあります。また烏水自身も、版木の転売や摺り増しが多く、乏しい材料で断定するのは不安だと書き添えています。 当店では、題の枠の色に加えて、線の鋭さ、紙・摺り・印、改印をあわせて摺りの時期を判断します。 判型は大錦(約39×26cm)の横絵が基本です(浮世絵の判型とサイズ一覧)。

富嶽三十六景の摺りに関するよくある質問

Q

「富嶽三十六景」は何枚ありますか?

A

全46枚です。小島烏水によると、はじめは36枚で完結する予定でしたが、10枚が追加で出版されました。版元は永寿堂の西村与八です。

Q

題の枠が藍色なら初摺ですか?

A

手がかりになりますが、それだけでは決まりません。最初の36枚は初摺では題の枠と地名が藍で摺られ、後年の後摺では黒になるとされます。ただし追加の10枚は初摺でも黒です。また後年の復刻では藍の枠をまねたものもあるため、線の鋭さや紙・色とあわせて判断します。

Q

「裏富士」とは何ですか?

A

追加された10枚を俗に「裏富士」と呼ぶことがあります。ただ烏水は、10枚のうち甲州側から見た富士は3枚だけで、すべてを裏富士と呼ぶのは正しくないと指摘しています。

Q

大正や昭和に摺られた富嶽三十六景も買取できますか?

A

買取できます。後年の摺りや復刻は江戸期の摺りより価格が下がりますが、揃いや状態のよいものは評価されます。1点の金額が小さい作品は、まとめて査定します(5点以上で送料無料)。

この記事について

版画買取.com(大阪府公安委員会許可 第62224R085831号)の査定担当が、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている小島烏水の著作を読み、実際の査定で確認している点を加えて執筆しました。当店は浮世絵・新版画を英国のオークションハウスに委託販売しており、海外市場の評価も踏まえて査定しています。葛飾北斎の買取については葛飾北斎の版画買取をご覧ください。

出典:小島烏水『江戸末期の浮世絵』梓書房、1931年、「葛飾北斎の富嶽三十六景」(国立国会図書館デジタルコレクション 57〜58・65・71コマ)。図の名称は同書の表記を現代の表記に改めています。

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