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川瀬巴水・伊東深水・橋口五葉らの新版画を世に送り出した版元、渡邊庄三郎。1931年(昭和6年)に渡辺版画店が刊行した『浮世絵師伝』の巻末には、購入者からの質問に渡邊自身が答えた記録が収められています。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されているこの一次資料から、査定にも関わる要点をまとめました。
結論
渡邊庄三郎によると、新版画は山桜の版木・越前奉書・植物性の絵具を使い、少ないもので20回、川瀬巴水の作品はたいてい35回以上摺り重ねていました。版木は千枚以上摺れるものの、初摺を売り尽くしたら絶版にし、枚数は100〜200枚、多くても300枚までというのが1931年当時の方針です。植物性の絵具は日光で褪め、湿気で変色するため、色の残り具合が今の評価を大きく左右します。
お手元の新版画、初摺かどうか写真で確認します
表・裏・余白の印が分かる写真を2〜3枚送っていただければ、作家と摺りの時期、買取の目安を査定担当が確認してお返事します。額に入ったままの写真でも構いません。
査定料・相談料は無料です。売るかどうかは査定額を見てからお決めください。お断りいただいても費用はかかりません。
この記事の内容
出典は、井上和雄編『浮世絵師伝』(渡辺版画店、1931年)の巻末にある、渡邊庄三郎の「新版画の内容質問解答」です。 冒頭で渡邊は、版画を買った人から寄せられる質問に答えてきたもののうち、一部を載せると説明しています。 新版画の版元本人が、材料や枚数を具体的な数字で語った記録は多くありません。
原本は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できます(該当箇所は178〜179コマ、本文263〜264ページ)。 渡邊庄三郎(1885–1962)の文章は日本では著作権の保護期間が満了しています。この記事では、旧字・旧仮名を現代の表記に改めて要約しています。
査定では、紙の厚みや繊維、裏への絵具の抜け方を見て、木版で摺られたものかを確かめます。 見分け方は木版画と印刷物の違いで詳しく解説しています。
1点に使う版木は、5色から12色ほどに色分けし、両面を彫るため平均5枚ほどで足りるといいます。 ただし1つの色版を5〜6回摺ることもあり、摺りの回数は少ないもので20回、 川瀬巴水の作品はたいてい35回以上でした。 伊東深水の「対鏡」「春」は、黒・赤・白の数色に見えても、それぞれ37〜38回摺りです。
渡邊は、江戸末期から衰えていた木版画を立て直すため、画家に版画の特質を理解してもらい、絵具と紙を選び直し、彫師・摺師にも古い型にとらわれないよう求めたと述べています。 従来は職人任せだった摺りに画家自身が立ち会い、濃淡や摺り方を指示したことで、肉筆画とは違う版画らしい表現が生まれたといいます。 画家の意図に合うまで版を直し、摺り直すため、「三者の共同というより、彫師や摺師が画家の助手になっている」というのが渡邊の説明です。作家が自分で彫って摺る創作版画との違いは創作版画と新版画の違いにまとめています。
版木は、すり減るまで摺れば千枚でも二千枚でも摺れると渡邊は認めています。 そのうえで、北斎や広重の初摺と後摺を見比べてきた経験から、後摺になるほど芸術的な価値が損なわれることを知っているとし、 「初摺だけ売り尽くしたら絶版にする。枚数は百枚から二百枚、多くて三百枚を超えることは断じてない」と述べています。
これは1931年時点の方針です。実際には、後年になって摺られた後摺も市場に多く出回っており、同じ図柄でも初摺と後摺で価格は大きく変わります。 当店では、余白の版元印や摺りの質、紙の状態から摺られた時期を見極めて査定します。 作家別の価格の目安は新版画の買取相場をご覧ください。
「摺り方が粗く、かき回したように見える部分があるのはなぜか」という質問に、渡邊は、版木は普通1枚で、 ばれんの手加減で縦横や円を描くように摺り目を残していると答えています。 平らに均一に摺るのはどの摺師にもできるが、画面に合わせて粗く摺るのは、版画の性質を理解した監督や画家がいて初めて効果が出る、という説明です。
こうした摺り目は傷やムラではなく、作品の表現の一部です。査定では欠点として扱いません。
木版画の柔らかい色は、草の葉・花・樹皮などを原料とする植物性の絵具によるものです。 そのため日光に当たると褪めやすく、湿気の多い場所に長く置くと変色すると渡邊は注意しています。 ガラス付きの額に入れて飾る場合も、2か月ほどで掛け替えるよう勧めています。
同じ本では、汚れた版画を洗ったり、傷んだ部分に別の紙を継いで色を足したりする修復を「美術破壊」と強く戒め、 小さな虫穴を繕い、汚れを抜く程度にとどめたいとも書かれています。 お手元の版画を売却する予定がある場合も、洗ったり補修したりせず、そのままの状態で写真をお送りください。
| 項目 | 渡邊庄三郎の説明(1931年) | 査定で見る点 |
|---|---|---|
| 版木 | 山桜 | 彫りの線のキレ。後摺ほど線が甘くなる |
| 紙 | 越前奉書の生漉きを特注 | 紙の厚み・繊維、裏への絵具の抜け |
| 絵具 | 植物性が主 | 色あせ・日焼けの程度 |
| 摺りの回数 | 20回以上。巴水はたいてい35回以上 | ぼかしや濃淡の深さ |
| 枚数 | 初摺100〜200枚、多くて300枚で絶版 | 初摺か後摺か(版元印・摺りの質) |
| 保存 | 日光と湿気を避け、額は2か月ほどで掛け替え | シミ・ヤケ・変色、洗浄や補彩の跡 |
お手元の新版画、初摺かどうか写真で確認します
表・裏・余白の印が分かる写真を2〜3枚送っていただければ、作家と摺りの時期、買取の目安を査定担当が確認してお返事します。額に入ったままの写真でも構いません。
査定料・相談料は無料です。売るかどうかは査定額を見てからお決めください。お断りいただいても費用はかかりません。
新版画の初摺は何枚くらい摺られましたか?
版元の渡邊庄三郎は1931年に「初摺だけ売り尽くしたら絶版にし、枚数は100枚から200枚、多くても300枚を超えない」と述べています。これは当時の方針で、後年に摺られた後摺も市場に出回っているため、初摺かどうかの見極めが価格を大きく左右します。
川瀬巴水の版画は何回摺り重ねていますか?
渡邊庄三郎によると、新版画は少ないもので20回、川瀬巴水の作品はたいてい35回以上摺り重ねていました。伊東深水の「対鏡」「春」は数色に見えても37〜38回摺りです。
色あせや日焼けは査定に影響しますか?
影響します。新版画は植物性の絵具を主に使っているため、日光で褪めやすく、湿気で変色します。色が残っているものほど評価が高くなるため、売却を考えている場合は直射日光と湿気を避けて保管してください。
汚れたまま送っても大丈夫ですか?自分で洗ったり補修したりすべきですか?
そのままお送りください。洗ったり、色を足して補修したりすると、元の色が損なわれて評価が下がります。同じ本でも、洗浄や補彩は版画を傷めると戒めています。